『ヘッドハンターが語る…30代からの「異業種転職」はアリか?』についてTwitterの反応



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人生100年、60年間働く時代へ
ひとつの会社や同じ業界で黙々と働き続けることはなくなってくる?(画像はイメージです/PIXTA)

なぜ、いま30代からの異業種転職なのか。

それは「人生100年時代」とおおいに関係しています。100年生きると仮定すると、元気でいられる時間も相当、長くなります。いままで私たちはザックリ40年働く前提で人生設計をしてきました。それが約1.5倍の60年になるということです。

想像をしてみてください。100年生きるということは、50歳が人生の中間点、ちょうど折り返し地点になります。これまでの考え方では、50歳になると定年まであと10年、昔の言葉でいうと「一丁あがり」という年齢です。大手企業の多くは55歳で役職定年を迎えるという制度もあります。

それが、就業年数60年時代になると、70歳から80歳まで働くようになるわけです。これは、世の中にとって非常に大きな変化です。結婚の時期や、子どもをつくるタイミング、余暇時間の過ごし方から、医療のあり方、教育、お金……と、すべてのことがドラスティックに変わります。なかでも「働き方」に対する影響はとても大きい。

これまでの人生は、まず就学期から20代前半までが「教育」期間で、学校を卒業後、新卒一括採用の慣習で「仕事」人生が始まります。そして定年を迎える60代で「引退」して、老後の生活に入る──といった、ある種、一直線なものでした。「教育」「仕事」「引退」の3つのステージしかありません。

これが、就業年数60年時代では、そうは単純にいきません。「仕事」→「教育」→また「仕事」と、「引退」までの間に何度も「教育」と「仕事」が繰り返し出てくるイメージです。私はこれを〝マルチステージ社会〟と呼んでいます。

誰もが60年間、働くことになると、当然、ひとつの会社や同じ業界で黙々と働き続けるということではなく、いくつもの会社を渡り歩く流動的なスタイルになることは確実です。これはわかりやすい理由だと思います。
転職が一般的な「欧米型」と終身雇用の「日本型」
もうひとつの要因に、企業の体力の問題があります。日本企業の特徴としてかつては「株式の持ち合い」がありました。

系列企業同士がお互いの株式を持ち合うことで、株主への利益還元よりも長期的な視野に立った安定経営ができるというメリットがあります。この日本型経営の根幹が、経済のグローバル化によって劇的な変化を遂げています。

1999年度に27.8%あった上場会社の株式持ち合い比率は、2016年度には9.9%(野村證券調べ)まで落ちています。手離された株は主に外国人投資家に買われ、それによって株主への利益還元要求が高まり、結果として日本企業といえども短期的な利益を追求せざるをえなくなっています。

グローバル化で企業は、国際競争にさらされることになったのに加えて短期目線の経営を強いられ、結果として内部留保が薄くなる。薄くなれば当然、終身雇用制に耐えられない財務体質になってしまいます。それが原因で、かつて日本企業の「強さ」の秘密だった終身雇用制を維持する体力がなくなってきたともいえるのです。

新卒一括採用、終身雇用は日本と韓国にだけ見られる制度です。私はこの日本型雇用・労働形態を「内部労働市場」と呼んでいます。これに対して、各職務(ポスト)・階層に空きが生まれたときに外部から人材調達する欧米型の雇用・労働形態を「外部労働市場」といっています。

内部労働市場では、社員は社内のさまざまな部署と仕事のローテーションを通じてスパイラル状に成長でき、それに伴い係長→課長→部長と昇進・昇格。働く人に対しては〝安心〟と〝安定〟を与えるシステムです。

歴史を振り返ると、こうした日本型経営は19世紀以降に誕生しています。資金調達を株式市場から行っていた欧米に対して、出遅れた日本では政府の強力なバックアップにより銀行からの借入(間接金融)をしやすくしました。それによって企業は安心して従業員に長期雇用を保証することができたのです。

ところが、前述のように株式市場における外国人投資家の比率が高まったことで、「安心」のシステムが崩れつつあります。社員全員に同質の教育を施し、育て上げる余裕がなくなってしまったということです。

これが、転職を繰り返しながら自身の能力を高めていく欧米型(外部労働市場)の働き方が増える理由ですが、一方で社会や組織文化はそう簡単に変わるものではありません。従来の日本型経営も根強く残り、二極化が進むと私は見ています。
会社が社員のベンチャー設立を応援
武元 康明著『30代からの「異業種」転職 成功の極意』(祥伝社新書)

世界のエクセレントカンパニーのひとつに数えられるトヨタ自動車も完全終身雇用制を採っています。これは日本人の精神構造、哲学、思想が変わらない限り、依然として続くだろうと思います。

要は、どちらか一方が伸びるのではなく、併存していくという流れです。終身雇用制の新たなパターンとして最近、私が注目している企業のひとつにサイバーエージェントがあります。サイバーエージェントというとバリバリのベンチャー企業で、完全実力主義の欧米型のイメージですが、必ずしもそうではないようです。

ベンチャーに集まる社員は、それぞれ起業家マインドも旺盛です。そこで、社内のベンチャー志望者を会社がバックアップする制度があります。失敗したらお払い箱かといえばそうではなく、その後も会社に残って再起を狙えるようになっているのです。

失敗したから評価が落ちるという感覚も、彼らにはありません。トライ・アンド・エラーでダメだったらまた次の企画を立てて、再トライすればいいじゃないか。そういうことを社内で何度も繰り返せる。実はこれは、新しい時代の新しい終身雇用のスタイルではないかという気がしています。

似たような動きが、ある老舗大手商社にもありました。この会社は毎年約100人近くの新卒社員を採用するのですが、1~2年後には40人くらいが辞めていくという実態がありました。就職人気企業ランキングで常に上位に入るような会社なのに、なぜ半数近くの人が辞めていくのか。実は、辞めた人の何割かがベンチャーに挑戦しているんですね。

優秀な学生が多く集まる超一流商社ですから、起業して一獲千金を狙う人材がいてもおかしくありません。しかし、ベンチャーですから当然、リスクもあって失敗もある。そこで、会社が、辞めていった社員に打診をすると、かなりの割合の人が「戻りたい」と言っていることがわかったそうです。

この会社にはもともと社内ベンチャー制度があったのですが、成功して株式上場を果たしても上場利益の多くを会社が持っていく仕組みになっていました。そこを大胆に変えて、成功したときは本人の取り分を多くし、逆に失敗しても本人のリスクがなく、かつ会社に残れるような環境を整えていく方針を決めたそうです。

辞めてベンチャーを起こした人たちは、会社が嫌いで辞めたのではありません。社内の制度が、自分たちのやりたいことに対して障壁になっていたから辞めたわけです。その障壁を取り除き、環境を整えてあげれば、社員は辞める必要がない。社内ベンチャーが成功すれば、会社にとっても社員にとってもウイン・ウインの関係になれる。どうやらそのことに気づいたようなのです。
個性ある人材も会社色に染めたい日本企業
日本の大手企業はやはり、人材を囲い込もうとします。とくに労働人口が減少するなか、優秀な人材は外に出したくないという心理が働くのは理解できます。ただ、終身雇用制といっても昔と同じままではなく、外部労働市場との折衷などさまざまな働き方が模索されています。

日本型経営に根強い人気がある一方、一生を一社で勤め上げることがなかなか難しい時代を迎えつつあるのは間違いありません。「人材の流動」と「多様な労働」は不可逆的なものだと言っていいでしょう。

それこそ、かつては超安定企業だった銀行・メガバンクと言われるところでもリストラが始まるなど、勝ち組といわれていたところでも絶対に安心だとはいえません。企業が従業員に〝安心〟を提示できなくなってきているということです。いまの社会の構造的な問題と言っていいでしょう。

業界内での企業間競争に勝つため、純粋培養で育ててきた人材だけではもはや対応できないことも増えています。かつて基幹産業といわれた鉄鋼、重電などのオールドエコノミー企業からも、ヘッドハンティングの依頼があるほどです。

ただ、ここが非常に矛盾するところで、私がこの連載を書こうと思った動機のひとつでもあるのですが、日本の企業はどうしてもドライになりきれない。どんなに優秀な人材であっても、やっぱりうちの会社の色に染まってもらわなくては困る、という意識が非常に強く残っています。ないものねだりのようなもので、本当は停滞している現状を活性化するために個性ある人材を招聘(しょうへい)したのに、いざ来てもらうと「やり過ぎだ」ということになる。

企業側のこういう意識を見極め、どう折り合いをつけるかが、実は本連載で繰り返しお伝えしようと思っている異業種転職の重要なポイントのひとつです。